Grace Family Vineyards

Grace Family Vineyards(グレース・ファミリー・ヴィンヤーズ)

1978年のファーストヴィンテージ以来、一貫してカベルネ・ソーヴィニョンのみを造り続け、ナパバレーで最初の「カルト・ワイン」の称号を手に入れた伝説のカリフォルニアワインGrace Family Vineyardsグレース・ファミリー・ヴィンヤーズの栄光の軌跡をご紹介。

1978年の最初の収穫から現在まで全てが手作業で行われ、品質に重点を置いている為、生産量が制限されており、入手困難なグレース・ファミリー・ヴィンヤーズの貴重なバックヴィンテージ・テイスティングレポートも併せてお届けします。

グレース・ファミリーについて

Dick Graceディック・グレースは1964年にアメリカ海兵隊を退いた後、サンフランシスコでアメリカの資産管理会社であるモルガンスタンレー・スミスバーニーで上級副社長を務め財を成すと、1976年にサンフランシスコを離れ、Napa ValleyのSt.Helenaに位置するRockland Driveの荒廃した美しいビクトリア朝の家へ移り住みました。

The Victorian house,CAYMUS VINEYARDS CABERNET SAUVIGNON Grace Family Vineyard 1978

左:荒廃した美しいビクトリア朝の家
参照元:gracefamilyvineyards.com, winebid.com

友人の勧めもあり、家族の趣味として購入した土地の一部(1エーカー)にブドウを植え始めると、1978年に最初の収穫を迎え、自社のワイナリーが出来るまでの間は近くのCaymus Vineyardsケイマス・ヴィンヤーズにブドウを持ち込んでワインを造りました。

ワインにはCaymus VineyardsのラベルにGrace Family Vineyardsの文字が記載されてリリースとなりました。

こうして伝説のカルト・ワインGrace Family Vineyards Cabernet Sauvignonグレース・ファミリー・ヴィンヤーズ・カベルネ・ソーヴィニョンが誕生します。

Grace Family Winery

石造りのグレース・ファミリー・ワイナリー
参照元:winespectator.com

その後、ケイマス・ヴィンヤーズのCharles F. (Charlie) Wagnerとグレース・ファミリーのディック・グレースは様々な衝突から関係が悪化していきCaymus VineyardsのラベルにGrace Family Vineyardsの文字が記載されてリリースされたのは1982年まででした。

このような状況から1983年にディック・グレースは自宅の小さな敷地にワイン造りの場を移します。
そして1986年にグレース・ファミリーは敷地内の北側に美しい宝石のような石造りのワイナリーを完成させました。

ちょうどこの頃から世界的にカリフォルニアワインへの注目が集まるようになった事もあり、グレース・ファミリー・ヴィンヤーズはナパバレーで最初の「カルト・ワイン」の称号を手に入れる事になりました。

ディック・グレースが味わった栄光と挫折。その先に見出した新天地。

1985年のナパバレー・オークションで1981年のグレース・ファミリー・カベルネ・ソーヴィニョンが最高額の値を付けると、たちまち国際的な名声を手にしました。
※375mlから6リットルまでのサイズが異なる5ボトルコレクションは10,000ドルの値が付いたほどです。

その一方で、グレース・ファミリーの評判が高まるにつれて、ディック・グレースのエゴも強くなっていきました。例えば、グレース・ファミリー・ヴィンヤーズ・カベルネ・ソーヴィニョンが最高の栄誉であるワイン・オブ・ザ・イヤーを獲得できなかった時、彼は激怒したそうです。やがてディック・グレースは極度のアルコール依存症になってしまいました。突然の名声と栄光のどこかで、ディック・グレースは道を失ってしまったのです。

ディック・グレースは自分自身を新しい観点から見始め、自己宣伝から他人を助ける事に情熱を向け直しました。1988年2月5日、49歳のディック・グレースは飲酒を辞めました。また、Alcoholics Anonymousというアルコール依存症患者が相互に助け合う団体に参加します。

charity1,charity2

参照元:sfgate.com

ディック・グレースは積極的にチャリティー・オークションでグレース・ファミリー・ヴィンヤーズ・カベルネ・ソーヴィニョンを出品し、その度に高値を付けました。

以来、毎年、グレース・ファミリー・ヴィンヤーズからワイナリーの収入の20%~22%を慈善団体に寄付し、ネパール、メキシコ、インド等の貧しい子供たちを救い、教育を受けさせ、医療援助を提供する為の支援をしています。

ディック・グレースは完全に生まれ変わったのです。

躍進を続けるグレース・ファミリー・ヴィンヤーズ

Hartwell Estate Vineyards,vineyard29,Barbour Vineyards1988年に畑を2エーカー拡大したグレース・ファミリー・ヴィンヤーズは同じ慈善活動を行っていたHartwell Estate Vineyardsに苗木を譲り1999年までHartwell Estate Vineyardsのワインはグレース・ファミリー・ヴィンヤーズで造られました。

更にVineyard 29、Barbour Vineyardsのワインも当初はグレース・ファミリー・ヴィンヤーズで造られました。

この頃までにグレース・ファミリー・ヴィンヤーズは非常に大きな影響力を持つようになっていました。

Hartwell Estate Vineyards
Vineyard 29
Barbour Vineyards

ナパバレーを襲ったフィロキセラ

Grace Family Vineyards Cabernet Sauvignon etching bottle

etching bottle
参照元:sfgate.com

1990年代初頭、ナパバレーの多くの地域でフィロキセラが蔓延し、ワイナリーに多大な影響を及ぼしました。

グレース・ファミリー・ヴィンヤーズも漏れなくこの影響を受け、1994年のヴィンテージが収穫された後、畑からブドウの木が抜かれ、植え替えを余儀なくされました。

この事から1993年にはわずか75ケース、1994年には175ケース、1995年には畑の上部のみから70~75ケース(3バレル)しか生産されませんでした。

1996年においては生産量が48ケース(2バレル)まで落ち込んでしまいました。可能な限り多くの顧客にワインを届ける為に、ディック・グレースはそれぞれエッチングされた珍しい1リットルのボトルでワインを瓶詰めし始めました。このボトルはメーリングリストの各メンバーに1本ずつだけ提供されました。

勢いを取り戻したグレース・ファミリー・ヴィンヤーズ

Allan Blankと妻Chotsie Blankが所有するケイマス・ヴィンヤーズに非常に近いラザフォードの畑(1.8エーカー)にグレース・ファミリー・ヴィンヤーズの苗木が植えられ、そこから収穫されたカベルネ・ソーヴィニョンで造られるワインが2001年にリリースされました。その名もBlank Cabernet Sauvignon。これでGrace Family Vineyards Cabernet Sauvignonに次ぐ2番目のシリーズを手にした事になります。

2001年から毎年フロリダ州ネイプルズで開催されるチャリティー・ワイン・オークション「ネイプルズ・ウィンター・ワイン・フェスティバル」にて、ナパバレー・ワイン・オークションでの記録を上回る落札額を獲得しました。Grace Family Vineyards Cabernet Sauvignon 12,000ml(Balthazar)に90,000ドルの値が付いたのです。

2012年にはGrace Family Vineyards Cabernet Sauvignon 12,000ml(Balthazar)とBlank Cabernet Sauvignon 12,000ml(Balthazar)のセットに160,000ドルの値が付きました。

更に、2019年と2020年には16リットルのGrace Family Vineyards Cabernet SauvignonとBlank Cabernet SauvignonのボトルにNaples Children & Education Foundationのロゴがハンドメイドで描かれたエッチングボトルのセットが120,000ドルで落札されました。

グレース・ファミリー・ヴィンヤーズを支えた歴代ワインメーカー

グレース・ファミリー・ヴィンヤーズでは、ワイン業界でも最も有力な人物が歴代のワインメーカーを務めました。

Gary Galleron(1987年~1995年)
Chuck Wagner(息子)とCharles F. (Charlie) Wagner(父)

Chuck Wagner(息子)とCharles F. (Charlie) Wagner(父)
参照元:winespectator.com

1978年のファーストヴィンテージから数年の間は近くのケイマス・ヴィンヤーズでワインを造っていた為、オーナーのCharlie Wagnerの指導を受けていました。

また、1975年~1985年までケイマス・ヴィンヤーズのワインメーカーだったRandy Dunnも、グレース・ファミリー・ヴィンヤーズのワイン造りに関与しました。
※ワグナー家は息子がChuck Wagnerで、孫は祖父の名にちなんで同じCharlie Wagnerと名付けられました。

Caymus Vineyards

Gary Galleron(1987年~1995年)
Gary Galleron

Gary Galleron
参照元:grape-nutz.com

1976年にシャトー・モンテレーナで修業し、Whitehall Lane、Grace Family、Hartwell、Vineyard 29、Del Dotto、Seavey、S. Anderson、William Harrison Vineyards、Mario Perelli-Minetti Winery等でワインメーカーを含む様々な業務に従事しました。

現在、自身のブランドGalleron Signature Winesを運営しています。

Galleron Signature Wines

Heidi Peterson Barrett(1995年~2001年)
Heidi Peterson Barrett

Heidi Peterson Barrett
参照元:fantesca.com

「ワインのファーストレディー」の異名を持つカリフォルニアで最も有力なワインコンサルタント。

Screaming Eagle、Dalla Valle、Paradigm Winery、Grace Family Vineyards、Vineyard 29、Kenzo Estate、Diamond Creek等のカリフォルニアにおけるトップワイナリーでコンサルタント実績のある人物です。

また、シャトー・モンテレーナのCEOであるボー・バレットの妻でもあります。現在は自身のブランドのBarrett and Barrett Winesを運営しています。

Barrett and Barrett Wines

Gary Brookman(2001年~2014年)
Gary Brookman

Gary Brookman
参照元:pleasethepalate.com

1980年にJoseph Phelps Vineyardsでワインを造り始め、その後、 Franciscan Estateで何度か収穫を手伝った後、1997年からMiner Family Wineryでワインメーカーとなり、2001年にGrace Family Vineyardsのワインメーカーになりました。

現在は自身のブランドBrookman Cellarsを運営しています。

Brookman Cellars

Helen Keplinger(2014年~)
Helen Keplinger

Helen Keplinger
参照元:webpages.scu.edu

Paradigm Wineryでアシスタント・ワインメーカーを務めていた時、ワインメーカーを務めていたのがハイジ・バレットという事もあり、洗練されたブティックワインの世界を学びました。

その後、オーストラリアとスペインでワインを学び、ナパへ戻ると、Kenzo Estateで再びハイジ・バレットと働く機会に恵まれました。更に、Bryant Family Vineyardsをはじめ数多くのワインメーカーを務め、2012年にFood and Wine誌で「Winemaker of the Year」に選出され、2014年にはWine Spectator誌6月号の表紙に取り上げられるほどの実力者となりました。

現在は自身のブランドKeplinger Winesを運営しています。

Keplinger Wines

慈善活動団体Grace Family Vineyards Foundation

1994年、世界中の貧困や教育、医療が不足する子供たちを支援する団体としてGrace Family Vineyards Foundationを設立します。団体のスローガンは「Wine to act as a catalyst towards healing our planet 地球を癒す為の触媒としてのワイン」。ワインの販売で得た収益の一部が団体の活動資金へ充てられます。主に中国、チベット、ネパール、インド、タイ、カンボジア、アフリカ、アメリカで展開されています。

Dick Grace,Dalai Lama,Anne Grace

Dick Grace,Dalai Lama,Anne Grace
参照元:northbaybiz.com

1999年にはDalai Lamaダライ・ラマと会談する機会に恵まれると、感銘を受けたディック・グレースは2001年に4年に一度、世界から50人、見返りを求めずライフワークとして人道支援活動を行う人々が選ばれ、ダライ・ラマから表彰されるUnsung Heroes of Compassionにおけるアイデアの開発に着手します。

グレース・ファミリー・ヴィンヤーズでは特別な大型ボトルはチャリティー・オークションの為にのみ保管されている程、積極的に慈善活動に参加しています。

ディック・グレースはワイナリーとワインを一種の仏教の祝福と見なし、他の人を助ける為の手段として使用しています。アルコール依存症を患った当初からは考えられない程の大変身です。

ディック・グレースとグレース・ファミリー・ヴィンヤーズのその後

Take the Hill

Take the Hill
参照元:napavalleyregister.com

ナパバレーにおけるカルト・ワインの先駆者であり、国際人道主義者でもあるディック・グレースの型破りな生き方は短編映画にもなりました。

2018年にナパバレー映画祭でディック・グレースのドキュメンタリー映画「Take the Hill」が放映されました。

この映画は、成功した投資ブローカーおよびワイナリーオーナーとしてのディック・グレースの人生が、白血病の9歳のアフリカ系アメリカ人の少年との偶然の出会いによって慈善活動へ目覚めていく様子を描いています。

Kathryn Green

Kathryn Green
参照元:napavalleyregister.com

2019年になると、40周年を迎えたグレース・ファミリー・ヴィンヤーズはワイナリーの管理を新世代に移行する事を決定しました。後継者問題からワイン造りの経験としては未だ浅いKathryn “Kate” Greenへ売却を決めました。

Kathryn “Kate” Greenは2009年にセントヘレナへ引っ越し、オリーブオイルの生産を始め、2015年にセントヘレナのVan Asperenにブドウ畑と土地を購入し、畑の植え替えの件でケプリンガーに相談していた事もあり、ケプリンガーと接点がありました。

ある時、ケプリンガーがグリーンとグレースを引き合わせた事で関係が生まれ、売却の話に至ります。

80歳を超えるディック・グレースと妻アン・グレースは引き続きこの土地に住み、ワイナリーに関与し続けます。ケプリンジャーとマネージャーのチームは残ります。

新オーナーKathryn “Kate” Greenはワインメーカーのケプリンジャーと共にグレース・ファミリー・ヴィンヤーズの伝統とその周りの慈善活動を続け、守っていく意思を表明しています。

ナパバレー初のカルト・ワインとして名をあげ、カリフォルニアワイン史に多大な影響を及ぼしたグレース・ファミリー・ヴィンヤーズの歴史は今もなお続いています。

テイスティング・レポート

Grace Family Cabernet Sauvignon 1992 vs Blank Cabernet Sauvignon 2004
2020年3月26日

Grace Family Cabernet Sauvignon 1992 vs Blank Cabernet Sauvignon 2004
Grace Family Cabernet Sauvignon 1992の香りはブラックチェリーや干しプラムの中に若干のスパイシーなニュアンスが感じられる。カベルネ・ソーヴィニョン特有の杉や針葉樹のニュアンスはあるが、熟成によって和らいでいる。味わいは甘みがソフトで苦味は熟成によってタンニンが溶け込んでおり柔らかい。酸味は比較的シッカリしていて後味に余韻が長く残るのが特徴的。全体的にエレガントにまとまっている。

Blank Cabernet Sauvignon 2004はこのヴィンテージにしてGrace Family Cabernet Sauvignon 1992よりも色が濃い。香りはラズベリージャムの甘い香りが強く、ミントや針葉樹のニュアンスもシッカリと感じられる。味わいは甘みがやや強く、タンニンはシッカリとしている。酸味はやさしく、後味に長く続くようなタイプではない。Grace Family Cabernet Sauvignon 1992とは対照的だが、セカンド感は否めないと判断。

総評として前者のGrace Family Cabernet Sauvignon 1992は非常に素晴らしく、カリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニョンの中でもトップクラスと思われます。1992年(28年の熟成)は全く枯れている様子はなく、飲み頃と言えます。

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ABOUTこの記事をかいた人

日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート
カリフォルニアワイン協会認定資格 California Wine Certification Program Level 2

2011年よりカリフォルニアワインのバックヴィンテージを追求。 ナパバレー、ソノマに足を運び数多くの名門ワイナリーを訪問。 主に海外のワインオークションで希少なバックヴィンテージを調達。

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