シャルドネとカベルネ・ソーヴィニョンに特化したワイン造りをモットーに1979年にナパバレー・オークビルの地でGil Nickelによって設立されたファーニエンテ・ワイナリーFar Niente Wineryが歩んだ歴史と栄光の軌跡をご紹介します。貴重なバックヴィンテージのワインテイスティングレポートもあわせてお届けします。
ファーニエンテ・ワイナリーについて
1849年のカリフォルニア・ゴールドラッシュで
金鉱夫だったJohn Bensonは農家に転身し、1885年にナパバレーのオークビルでFar Niente Wineryファーニエンテ・ワイナリーを設立しましたが1920年から1933年の禁酒法期間中にワイナリーは強制的に放棄させられた事で稼働が停止してしまいました。
この当時造られていた1886年ヴィンテージのファーニエンテ・スイートマスカットは現存する最古のカリフォルニアワインボトルと考えられています。
1939年にオクラホマ州のMuskogeeで生まれた
Gil Nickelギル・ニッケルは1961年にオクラホマ州立大学を卒業します。1976年にはカリフォルニア大学デービス校で醸造学を学び、
1979年に荒廃したファーニエンテ・ワイナリーと隣接する畑を購入します。
Gil Nickelは自宅サンフランシスコのNob HillでNob Hill Cellarsと名付けた自家製ワインを造っていた経験があります。
Gil Nickelはこの荒廃したファーニエンテ・ワイナリーの壁に「Far Niente」の文字が刻まれているのを発見し、ワイナリーの名前にする事にしました。
そして、この旧ワイナリー跡地を3年掛けて復元した事でファーニエンテ・ワイナリーは再び息を吹き返します。
※Far Nienteという言葉は元々Dolce Far Nienteというイタリアのことわざで「何もしない事の喜び」を意味します。
1979年ヴィンテージのシャルドネをリリースすると1982年にはワイナリーで最初のカベルネ・ソーヴィニョンが収穫され、幅を広げます。
1983年にはLarry Maguireをジェネラル・マネージャー、Dirk Hampsonをワインメーカとして迎え入れました。
Dirk Hampsonはカリフォルニア大学デービス校で醸造学を学んだ後、ドイツのSchloss Vollrads Rheingau Estate、ブルゴーニュのLaboure Roi、ボルドーの Chateau Mouton Rothschildで経験を積んだ人物です。
レイト・ハーベスト(甘口ワイン)への着手 ~Dolce Cellarドルチェ・セラーの誕生
1985年になるとGil Nickelは個人的な楽しみの為にブドウの糖度が高くなるまで収穫を待ち、糖度を十分残した状態で造られるレイトハーベスト(甘口ワイン)を造り始めます。このレイトハーベスト(甘口ワイン)が1989年には別ブランドDolce Cellarドルチェ・セラーとして正式にリリースされる事になります。
ドルチェはボトリティス・シネレア(Botrytis Cinerea) と呼ばれる天然の菌(カビ)がブドウの水分を蒸発させる事で、糖分、酸、風味が濃縮したブドウに変化し、そのブドウを使って造られる極甘口デザートワインです。ドルチェ・セラーはファーニエンテ・ワイナリーのカーヴの中にあり、ブドウはナパ市の東にあるクームズビル地域に独自の畑を所有し、そこで収穫されたセミヨンとソーヴィニヨンブランのブレンドで造られます。
ドルチェ・セラーはボルドーの偉大なソーテルヌの生産者と共通の哲学を持つレイトハーベスト(甘口ワイン)のみに専念している北米で唯一のワイナリーです。
勢いに乗るファーニエンテ・ワイナリー
当初Gil Nickelが荒廃したワイナリーを購入した時に丘の斜面に石造りのアーチがある事に気付き、創設者John Bensonが丘の斜面にワイン貯蔵用の洞窟(カーヴ)を掘る計画があったのではないかと推測しました。そこで、1980年にナパバレー・ワインカーヴのパイオニアであるAlf Burtelsonを雇い、この計画を進める事にしました。
1991年には15,000平方フィートの洞窟(カーヴ)を完成させ、1995年には更に28,000平方フィートに拡張します。
※2001年に40,000平方フィートまで拡張
また、敷地内にはGil’s Placeと名付けられた場所があり、ここにはレースにも出場するGil Nickelのアンティークカーコレクションが展示され、訪問者が鑑賞できる場所となっています。
1997年になると
Gil Nickelは単一畑・単一品種に焦点を当てたNickel & Nickelというブランドをオークビルで立ち上げます。当初はカベルネ・ソーヴィニョンのみでしたが現在ではシャルドネ、メルロー、シラーの生産も行われています。Gil Nickelは単一畑で収穫された100%単一品種でワインを造る事で各畑の個性を最もよく表現できると考えたのです。
2003年10月30日の朝、メラノーマの合併症でGil Nickelが亡くなりました。享年64歳。25年にわたるGil Nickelのワイン造りのキャリアは終わってしまいましたが、妻のBeth及びパートナーであるDirk HampsonとLarry McGuireは、彼が設立した3つのブランドを引き続き経営します。
2007年にはロシアン・リバー・バレーのピノノワールに焦点を当てた
新ブランドEnRoute Wineryエンルート・ワイナリーをソノマのSebastopolに設立します。Nickel & Nickelで密かにピノノワールの研究開発を進めており、晴れて開発が成功した為、別ブランドEnRoute Wineryを設立するに至りました。2012年にはナパバレーのカベルネブレンドに焦点を当てた
新ブランドBella Union Wineryベラ・ユニオン・ワイナリーをナパバレーのラザフォードに設立します。
最上級のカベルネブレンドを造るには厳選された畑とカベルネ・ソーヴィニョンを補完する伝統的な品種(カベルネフラン、プティヴェルド等)を芸術的にブレンドする必要があります。この精神に基づき、ベラ・ユニオン・ワイナリーは誕生しました。
このようにファーニエンテ・ワイナリーは2003年に創業者Gil Nickelが死去した後も拡大を続けています。
ファーニエンテ・ワイナリーが所有する5つの畑
The Martin Stelling Vineyard
Oakvilleにある57エーカーのこの畑はファーニエンテ・ワイナリーが保有する最も面積が大きい畑です。畑の名前の由来はこの土地の前の所有者であるMartin Stellingにちなんで名付けられました。
ナパバレーで最も美しい砂利質のローム土壌にカベルネ・ソーヴィニョンとプティヴェルドが植えられています。Heitz Cellars Martha’s Vineyard、Robert Mondavi Reserve blocks、Harlan Estateといった著名な畑と隣接しています。
John C. Sullenger Vineyard
Oakvilleにある42エーカーのこの畑は1998年に取得し、かのオーパスワンの真北、ロバート・モンダヴィ・ト・カロン・ヴィンヤードの向かい側に位置します。また。この敷地は姉妹ブランドNickel & Nickel Wineryの本拠地であると同時にFar Niente Napa Valley Cabernet Sauvignonの供給源の一部にもなっています。この畑からは、この地域特有の繊細な優美さ、ストラクチャー、エレガンスを備えたワインが造られています。
Barrow Lane Vineyard
Coombsvilleにある18エーカーのこの畑はナパ市の東側の丘のふもとに位置し、サン・パブロ湾からの冷涼な影響を受けたカーネロスの特徴的な気候と水はけの良い火山性の土壌から果実味のあるシャルドネが収穫されます。
John's Creek Vineyard
Coombsville にある50エーカーのこの畑は深い砂利質のローム土壌からアロマとフレーバーには豊かさと繊細なトロピカルフルーツのニュアンスの素晴らしい要素が加わっており、Far Niente Chardonnay Napa Valleyのブレンドに提供されています。
Carpenter Vineyard
Coombsville にある25エーカーのこの畑はJohn’s Creek Vineyardに隣接し火山性の砂利質ローム土壌で構成されており、冷涼な生育条件、朝方まで畑に降り注ぐ霧、全体的に温暖な気候が深みと冷涼感のあるワインを生み出すのに役立っています。2001年まではFar Niente Napa Valley Cabernet Sauvignonの供給源の一部となっていました。また、2003年からはFar Niente Chardonnay Napa Valleyのブレンドに提供されています。
リリースワイン一覧
シャルドネ
1979年の創業時から栽培シャルドネはEstate Bottled Napa Valley ChardonnayとNapa Valley Chardonnayの2種類があります。Napa Valley Chardonnayはクームズビルを中心としたナパバレーの畑から収穫されたシャルドネのブレンドで造られます。また、ファーニエンテ・ワイナリーのシャルドネはマロラクティック発酵を使わずに造られるという特徴があります。
カベルネ・ソーヴィニョン
1979年の創業時から栽培されているカベルネ・ソーヴィニョンはEstate Bottled Cabernet Sauvignon, Oakville, Napa ValleyとCabernet Sauvignon, Napa Valleyがあります。前者はThe Martin Stelling Vineyardで収穫されたブドウを使って造られ、後者はRutherford、Calistoga、St.Helenaで収穫されたブドウをブレンドして造られます。また、若干のプティヴェルド、マルベック、カベルネフラン、メルロー等がブレンドされます。
ドルチェ
1985年からファーニエンテ・ワイナリーとは別に個人の趣味としてブドウの糖度が高くなるまで収穫を待ち、糖度を十分残した状態で造られるレイトハーベスト(甘口ワイン)に着手しました。そして1989年にファーニエンテ・ワイナリーからではなく別ブランドDolce Cellarドルチェ・セラーとして始動。
フランス・ボルドー地方のソーテルヌと同様にブレンドはセミヨンが主流で、ソーヴィニヨンブランがバランスを取っています。このセミヨンはナパの町の東に位置するクームズビルの20エーカーの畑で栽培されています。
カーヴコレクション
毎年ヴィンテージの約20%を残し、更に2年間カーヴ内で瓶内熟成させた後、このワインを再びリリースします。これにより長期間待たずに熟成したワインを飲む事が可能となります。カベルネ・ソーヴィニョンとシャルドネそれぞれのカーヴコレクションがあります。
近年のファーニエンテ・ワイナリー
2016年に投資、資産運用を手掛けるGIパートナーズがファーニエンテ・ワイナリーの株式の過半数を取得しました。シリコンバレーのメンロパークに拠点を置くGIパートナーズは、機関投資家向けに120億ドル以上の資本を運用しています。同社はテクノロジー企業や不動産を専門としていますが、ワインベンチャーは今回が初めてではありません。2008年には、ナパのダックホーン・ワイン・カンパニー(Duckhorn Wine Company)の支配権を取得しています。
この買収にはファーニエンテ・ワイナリーの他、姉妹ブランドDolce Cellarドルチェ・セラー、Nickel & Nickelニッケル・ニッケル、EnRoute Wineryエンルート・ワイナリーも含まれます。
ファーニエンテ・ワイナリーの経営陣Beth NickelとErik Nickel及びDirk HampsonとLarry Maguireは株主として残り、ワイナリーの日々の経営に積極的に関わっていきます。
ワインテイスティングレポート
Far Niente Cabernet Sauvignon 1982
2020年9月2日
ブラックベリーやブラックチェリーのような黒系果実や黒スグリの香りの中にスモーキーなニュアンスも取れる。カベルネ・ソーヴィニョン特有の杉や針葉樹のニュアンスもこのヴィンテージにして若干取れる。味わいは甘みはソフトで酸味は比較的シッカリとしており、後味まで細く長く続く。タンニンは熟成から溶け込んでいる印象。
すべてのバランスが取れていて38年の熟成でも飲み頃を過ぎておらずパーフェクトに近い。素晴らしい!
Far Niente Chardonnay 2018
2020年9月2日
香りは洋ナシやパイナップルの強い香りがあり、ややパッションフルーツのニュアンスも取れる。味わいは甘みはソフトで酸味は非常に線が細く上品で長く続く。苦味は穏やか。
多くのカリフォルニア・シャルドネと異なりマロラクティック発酵(MLF)をしないで造られる為、ミネラル感が際立ち、酸味がシャープでエレガント。
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